- 最低制限価格とは公共工事等の入札において、品質低下やダンピング受注を防ぐために設定される失格ライン
- 最低制限価格を下回る入札は失格となる
- 入札価格が一定範囲に集中しやすくなるため、過去の落札率分析に基づいた精緻な価格設定が重要
地方自治体の入札では、一部の案件で「最低制限価格の設定あり」とされていることがあります。
この「最低制限価格制度」は、設定価格を下回る価格で入札した事業者が失格となる制度で、著しく低い価格による不適切な履行を防ぐために設けられた制度です。
この最低制限価格は自治体によって算定方法が異なり、また、入札の競争環境にも変化を及ぼすため、単に制度の概要を知っているだけでは十分ではありません。
そこで本記事では、最低制限価格の意義・仕組みから、自治体別に異なる設定割合の実態、企業の入札戦略に与える影響までを整理して解説します。これから、公共調達に参加しようとお考えの方にとって参考になる情報ですので、ぜひ最後までご覧ください。
最低制限価格とは?
最低制限価格の定義
最低制限価格とは、公共工事や関連業務の入札で発注者である自治体が「これを下回る金額では適切な施工・履行が確保できない」と判断する入札金額です。
価格競争方式の入札では通常、入札参加者のうち最も低い価格で入札した者が落札者となりますが、入札価格が最低制限価格を下回っている場合は失格となります。
したがって、「最低制限価格以上、予定価格以下」で入札した者のうち、最も低い価格で入札した者が落札者となります。
最低制限価格制度の目的
最低制限価格制度は、過度な安値競争による品質低下や不適正な受注のリスクを防ぐために設けられています。
最低制限価格制度は、いわゆる「ダンピング受注」に対する対策として行われています。
「ダンピング受注」とは、企業が原価を大きく下回る極端な安値で工事や業務を受注することをいいます。「実績を作りたい」「従業員を稼働させるため、原価割れでも受注したい」などの理由で、極端な安値で入札し確実に落札しようとするものです。
こうしたダンピング受注は、著しく低い価格での受注により工事の品質・安全性を損なうおそれがあります。
最低価格と低入札価格調査制度の違い
最低価格制度と近い仕組みに「低入札価格調査制度」があります。
低入札価格調査制度は、設定した調査基準価格未満の入札事業者について、「本当に適切に履行できるのか」を発注者が契約前に調査する制度であり、最低価格制度と同様に「ダンピング受注」の対策として行われています。
最低価格制度が適用される入札で「最低価格」より低い価格で入札した事業者は自動的に失格扱いとなります。
一方で、低入札価格調査制度が適用される入札で「調査基準価格」より低い価格で入札した事業者は直ちに失格となるのではなく、契約の履行可能性について調査を受け、適切な履行が不可能と判断された場合は失格となります。
最低制限価格が企業の入札戦略に与える影響
最低制限価格制度は、発注者にとってはダンピング受注に対応する目的で行われていますが、受注を目指す企業にとっても入札価格戦略に大きく影響します。
価格設定の自由度が制限される
最低制限価格の適用がある入札では、企業が提出できる価格の幅が実質的に狭まります。
最低制限価格は事前公表・事後公表どちらの場合もありますが、いずれにしても「出せる最低価格」が決まってしまうため、自由な値下げ戦略がとれなくなります。
特に、最低制限価格を入札の透明性等の観点から事前公表する案件では、最低制限価格での入札が増え、結果としてくじ引きでの落札者決定が頻繁に行われるケースも見られます。
最低制限価格を事後公表とする場合も、企業間の価格競争はもちろん、仕様書から発注者が設定する予定価格・最低制限価格を推測する精度が、落札には重要となってきます。
最低制限価格制度における失敗パターン
最低制限価格制度の理解が不十分な場合、次のような失敗が起きやすくなります。
失敗1:ギリギリを攻めすぎて失格になるパターン
最低制限価格は案件ごとに異なるため、過去の落札率を十分に分析していないと、予想した最低制限価格より少し低い価格を提示して失格となってしまう場合があります。
失敗2:自治体の制度差・レンジ差の見落とし
最低制限価格の設定割合は自治体ごとに違いがあります。工種別に異なる係数を用いる自治体や、金額帯によって設定方法を変える自治体もあります。
失敗例3:内部コストを踏まえずに無理な値下げを行う
最低制限価格の推測に気を取られ、自社の採算ラインを考慮しないまま応札すると、落札後の収支、資金繰りに影響することがあります。
特に人件費・資材費が上昇している状況では安値受注は結果的に体制負担を招き、品質確保が難しくなるリスクがあります。
これらの失敗を避けるためには、過去の落札率・競合状況を分析することが重要です。
過去の類似案件での落札率を分析し、予定価格に対して現実的に落札が期待できる価格帯をある程度推測することが可能になります。
落札率=「落札価格 ÷ 予定価格 × 100」
最低制限価格はどの程度に設定される?
最低制限価格の計算式
最低制限価格の計算式は、国が低入札価格調査制度で使用する調査基準の計算式を参考にするよう国から要請されています。
〈国が使用する低入札価格調査基準の計算式(いわゆる「中央公契連モデル」)〉
| 基準額の範囲 | 予定価格の7.5/10~9.2/10 |
| 計算式 | ・直接工事費×0.97 ・共通仮設費×0.90 ・現場管理費×0.90 ・一般管理費等×0.68 上記の合計額×消費税 |
(※)(出典) 中央公共工事契約制度運用連絡協議会「工事請負契約に係る低入札価格調査基準中央公共工事契約制度運用連絡協議会モデル」(令和4年3月4日付け)
最低制限価格制度の実施は、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」でダンピング受注の防止が明記されていることや、総務省・国土交通省局長の連名通知により「最低制限価格制度の適切な活用を徹底することにより、ダンピング受注の排除を図ること」と各自治体あて要請されていることが事実上の根拠となっています。
最低制限価格の算定水準については、同通知内でいわゆる「中央公契連モデル」の改定状況を踏まえ見直すことで、ダンピング受注対策を強化するように要請されています。
この「中央公契連モデル」は国が低入札価格調査制度における調査基準の計算式ですが、最低制限価格の計算にあたっても参考とされています。
都道府県の最低制限価格算定式の設定水準
国土交通省が入札契約適正化法に基づき毎年実施する調査(※)によると、最低制限価格制度を未実施あるいは算定基準非公表の自治体を除いた都道府県では「中央公契連モデル(令和4年)」相当あるいはそれ以上の水準で運用されています。
(※)国土交通省「令和6度入札契約適正化法に基づく実施状況調査(令和6年7月1日時点)」
(都道府県の最低制限価格算定式水準)
| 令和4年モデル以上の水準 | 14自治体 |
| 令和4年モデル相当の水準 | 27自治体 |
| 算定式非公表 | 2自治体 |
| 最低制限価格制度未導入 | 4自治体 |
(出典)国土交通省「令和6度入札契約適正化法に基づく実施状況調査(令和6年7月1日時点)」
市区町村の最低制限価格算定式の設定水準
国土交通省が入札契約適正化法に基づき毎年実施する調査(※)によると、全国の市区町村における最低制限価格算定式の水準は、7割超の自治体が「中央公契連モデル(令和4年)」相当あるいはそれ以上の水準で運用されているとされています。
(市区町村の最低制限価格算定式水準)
| 計 | ||||
| 指定都市 | 市区 | 町村 | ||
| 令和4年モデル以上の水準 | 109 | 4 | 62 | 43 |
| 令和4年モデル相当の水準 | 1023 | 14 | 537 | 472 |
| その他水準(算定式非公表を含む) | 404 | 2 | 147 | 255 |
| 合計 | 1536 | 20 | 746 | 770 |
(出典)国土交通省「令和6度入札契約適正化法に基づく実施状況調査(令和6年7月1日時点)」
最低制限価格が企業の入札戦略に与える影響
価格設定の自由度の制限
最低制限価格が設定されている入札では、企業が提示できる価格の下限が事実上制限されます。
最低制限価格を下回る入札は価格が最も低くても失格となるため、「どこまで価格を下げられるか」という自由な価格競争は成立しないことになります。
その結果、入札価格は最低制限価格付近の狭い範囲に集中しやすくなります。
特に、最低制限価格が事前公表される場合は、複数の入札者が同額で入札する場合も見られ、くじ引きで落札者が決定される場合もあります。
最低制限価格が事後公表の場合も、最低制限価格付近での入札価格の集中は見られます。そのため、企業側にとっては「安く出せば勝てる」という単純な戦略が通用しなくなり、最低制限価格の位置を意識した、より精緻な価格設定が求められることになります。
自治体ごと算定基準差による価格設定ミス
最低制限価格制度は全国一律ではなく、上述のとおり自治体ごとに算定方法が異なります。
このため、過去に別の自治体で経験した感覚や、一般的な割合イメージだけで最低制限価格を見込み入札価格を設定すると、実際の最低制限価格と大きな乖離が生じる可能性があります。
上述のとおり、地方自治体の最低制限価格算定方法は、国が低入札価格調査制度の算定に使用する「中央公契連モデル」を参考にするよう国から通知されています。また、国土交通省の調査で、各自治体の算定方法(中央公契連モデルか独自モデルか等)に関する調査結果が公表されていますので、確認をしておくことが重要です。
参考:国土交通省HP「入札契約適正化法に基づく実施状況調査の結果について
自社採算性の軽視
最低制限価格を強く意識するあまり、自社の採算性の検討を後回しにしてしまいがちですが、落札後の業務遂行の支障になるケースもあります。
最低制限価格は、あくまで発注者が「この価格を下回ると適正な履行が困難になるおそれがある」と判断する基準であり、企業にとっての採算ラインを示すものではありません。
しかし、激しい競争が見込まれる場合や積算のための時間を確保できない案件では「最低制限価格近くまで下げなければ落札できない」と考え、原価や間接費を十分に織り込まないまま価格を設定してしまうことがあるかもしれません。
こうした、自社の採算性を十分に考慮しない入札価格設定は、落札後に採算が合わず、体制維持や品質確保に支障をきたすおそれがあります。
最低制限価格と自社の採算ラインは別物であることを前提に、最低制限価格はあくまで「失格を避けるための下限基準」と捉え、価格設定は自社の収支構造を踏まえて行う必要があります。
他社の応札価格帯の変化と情報収集の重要性
最低制限価格制度のもとでは、競合他社の入札価格帯も当然変化し、入札結果に大きく影響します。
最低制限価格制度適用の有無を軽視し、発注者・案件内容から過去の感覚だけで価格を設定すると、入札価格帯の違いに対応できず、落札機会を逃す可能性があります。
そのため、入札戦略を立てる際には、最低制限価格制度の適用があった入札の結果を継続的に確認し、他社の応札価格帯や落札率の動向を把握することが重要です。
自治体ごとの入札結果を個別に確認することも可能ですが、参加する自治体や業種が多い場合は各発注者のホームページや入札システムを複数確認する必要が生じてしまい、相当な手間がかかってしまいます。
こうした入札情報のリサーチにおすすめなのがNJSS(入札情報速報サービス)です。
全国の国の省庁・自治体の過去の入札情報や入札結果を検索することができるので、入札に関する情報分析に非常に有用です。
最低制限価格制度下における入札戦略の精度を高めるうえでも有効な手段といえます。
まとめ
最低制限価格とは、公共工事や関連業務の入札で発注者である自治体が「これを下回る金額では適切な施工・履行が確保できない」と判断する入札金額を言います。制度の目的は、著しい低価格での入札(ダンピング受注)による不適切な履行や品質低下を防ぎ、また入札における適正な競争を確保することにあります。
最低制限価格制度の適用有無は、入札に参加する企業の入札価格の設定に大きな影響を与えます。
最低制限価格の設定方法や割合は全国一律ではなく、自治体ごとに制度設計や運用が異なります。国が示す標準モデルを基準に算定する自治体が増えている一方で、市区町村レベルでは独自の算定式を採用しているケースもあり、入札にあたっては自 治体ごとの制度差を前提に対応する必要があります。
また、最低制限価格制度のもとでは価格設定の自由度が制限され、入札価格が一定の帯域に集中するなど、競合企業の入札価格帯も変化します。過去の感覚や一般的な割合イメージだけで価格を決めると、わずかな差で失格となったり、自社の採算性を損なう価格設定につながるおそれがあります。
そのため、最低制限価格制度の適用がある入札案件に参加する場合は、過去の入札結果を分析するなど事前の情報収集が重要です。
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