- 入札談合は複数の事業者が事前に落札者や価格を調整する行為のこと
- 談合は税金の無駄遣いを引き起こすだけでなく、行政や公務への信頼を大きく損ねる
- 現在は刑法、独占禁止法、官製談合防止法によって厳しく規制されるようになった
官公庁の入札に参加しようとするとき、気になるのが「入札談合」です。
入札制度に対する意見として「入札なんて談合ばかりでは」といったものがあります。
ですが、それは誤解です。今日では適正・公正な入札のために制度が整備されており、安心して競争入札に参加することができます。
しかしながら、意図せずに談合に該当する行動をとってしまい、罰則や報道等による社会的制裁を受けることは避けたいところです。
そこでこの記事では、これから官公庁入札に参加しようと検討中の方に向けて入札談合に対する制度の状況を解説します。
もくじ
入札は談合が多い?入札に対する誤解
官公庁の「入札」と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか。
「談合が行われていそう」
「結局は特定の業者が選ばれるのでは?」
といった不信感を抱く方も少なくありません。
実際のところ、日々実施されている入札の結果が報道されることはほとんどありません。
報道では極めて稀な事例である談合事件のみが大きく取り上げられるため、「入札=不正」という印象を持ってしまっても仕方ないのです。
しかし、現在の入札は、公正かつ透明性の高い制度のもとで運営されています。
多くの案件は競争原理に基づいて適正に行われており、実際に多くの企業が初めての公共札にチャレンジし、契約を獲得しています。
入札制度は、企業にとって新規取引先を獲得する大きなチャンスであると同時に、行政にとっても適正な価格で良質なサービスを調達するための重要な手段です。
不信感から距離を置くのではなく、制度を正しく理解することが健全な競争参加への第一歩になります。
そもそも「談合」とは?
「談合」は「話し合うこと」を意味する言葉です。本来「談合」という言葉それ自体に悪い意味はありません。
入札において「談合(入札談合)」とは、複数の事業者が事前に協議し、落札者や価格を調整する行為を指します。例えば、以下のような行為が該当する恐れがあります。
落札業者や金額を事前に決める行為
代表的なものとして、落札業者や落札価格を事前に決めてしまう行為です。たとえば、特定の業者が順番に落札できるように調整する「輪番制」や、今回はA社、次回はB社とあらかじめ順番を取り決めるようなケースが該当します。
また、特定の業者に落札させるために他社がわざと高い価格で応札する、いわゆる「協力見積」も違反に当たります。これらは、形式的には競争が行われているように見えても、実質的には価格が調整されており、公正な競争とは言えません。
談合に反する企業への圧力
談合に協力しない企業に対する圧力や排除行為も該当する可能性があります。具体的には、「談合に従わなければ今後の入札に呼ばない」「業界の慣例を乱すな」といった形で非協力的な企業を暗黙に排除するケースがあります。
また、入札に参加しようとする企業に対し、「今回は辞退してほしい」と直接・間接に要請をする方法もあります。こうした行為は、たとえ明示的な強要でなかったとしても、自由な競争を妨げる不当な働きかけと見なされます。
行政職員の関与による談合(官製談合)
さらに、発注側である行政職員が関与する「官製談合」もあります。
予定価格や入札予定者など、本来は秘密にされるべき情報を特定の業者に事前に漏らしたり、「この案件は御社でお願いしたい」といった形で特定企業への受注を誘導したりする行為がこれに該当します。
また、特定の業者が有利になるよう仕様書の内容や評価基準を調整するような事例も報告されています。
競争入札の形式を装った“談合的随意契約”
随意契約において複数業者の見積額を比較して契約先を決定する「見積合わせ」の際に、事前に価格のすり合わせが行われているようなケースです。
見積書の様式や記載内容が極めて類似している場合、談合の可能性を疑われることがあります。形式的には複数の見積が提出されていても、事業者間で内容が打ち合わせ済みであれば、実質的に談合と評価される可能性があります。
情報交換・調整を通じて価格競争を回避する行為
たとえば、「今回の案件はA社が有利だから、うちは控えよう」といった話し合いが事前に行われる場合や、「このくらいの金額が妥当では」と各社が入札価格の目安を確認し合うケースなどがこれに該当します。
実際に合意書がなくても、こうした合意形成が行われていれば、それだけで談合の構成要件を満たすと判断される可能性があります。
談合が禁止される理由
官公庁入札において談合が禁止される理由は「社会的に大きな悪影響を及ぼすから」です。
具体的には、以下に挙げる理由から各法によって制限され、罰則規定が設けられています。
公正な競争の確保
入札は、本来企業間の自由競争によって行政が最良のサービスを最も安い価格で調達することを実現する制度です。
談合は自由競争下において企業間に働く競争原理を阻害し、競争を形骸化させ、市場の健全な発展を阻害します。
税金の無駄遣いを防ぐ
談合により競争が行われず価格が人為的に高止まりすると、発注者である行政は以上の支出を強いられます。
自由競争下では企業間の競争によってより低価格で同等の調達が可能と期待されるため、非効率な公金使用といえます。
公務・行政への信頼を守る
入札は行政と企業との契約の場であり、その透明性が損なわれると、行政全体への信頼が揺らぎます。
公共入札は、国民の税金を使って社会インフラや公共サービスを整備・提供するプロセスです。このプロセスで不正が存在すると「税金が不適切に使われたのではないか」という疑念が生じ、行政全体への信頼が一気に揺らぎます。
行政全体への信頼が揺らぐと、例えば住民の納税意欲の低下や、誠実な企業による入札市場からの撤退などを引き起こし、円滑な行政サービスの提供が困難になる事態が想定されます。
そのため行政は、「不正が起こり得ない仕組み」と「発覚時に厳正に処罰される体制」 を整備し、透明性を高めることで社会全体の信頼を維持しています。
談合に関する規制・罰則規定
入札談合は、公正な競争を妨げ、行政の調達コストを不当に引き上げ、公共の信頼を損なう重大な不正行為です。
この行為に対しては、以下の3つの法律によって規制・処罰が行われています。
- 刑法(第96条の6:談合罪)
- 独占禁止法(不当な取引制限)
- 官製談合防止法(発注者職員の関与行為の処罰)
それぞれの法律が対象とする主体・行為・制裁の範囲は異なっています。
刑法だけではカバーできない法人制裁や行政内部の腐敗防止を、独占禁止法と官製談合防止法がそれぞれの立場から補完しており、談合の未然防止と厳格な対応を可能にしています。
以下に、それぞれの規定と特徴を整理します。
刑法の規定
刑法では、第5章「公務の執行を妨害する罪」 の中で、第96条の6第2項にいわゆる「談合罪」の規定があります。この条文は以下のように規定されています。
2 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様(筆者註:三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。)とする。
引用:刑法 | e-Gov 法令検索
この規定により、公正な価格形成を阻害する目的(落札額のつり上げなど)があれば処罰対象となります。
ですが、そもそも「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的」の立証が困難であったり、法人に対する直接的な罰則規定がない点、罰則が談合によって得る利得と比較して低額である点などから、刑法が有する談合の抑止力には限界があるとされています。
独占禁止法の規定
独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)には、企業間の競争制限についての規定として「不当な取引制限の禁止」(第3条、第2条第6項) があります。
第2条第6項
この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
第3条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
引用:公正取引委員会
例えば、複数の企業が連絡を取り合い、「今回はA社、次回はB社が落札する」といった受注調整を行いあらかじめ価格や順位を決めるような行為は、独占禁止法における「不当な取引制限」に該当します。
独占禁止法の特徴は、以下のとおりです:
- 主な対象は法人(企業)
- 違反行為があれば、公正取引委員会により排除措置命令(行為の停止・再発防止)や課徴金納付命令(売上高に応じた制裁金)が科される
- 悪質な場合は刑事告発により刑事罰(懲役・罰金)も科される
- 民間入札・公共入札を問わず広く適用される
このように、独占禁止法は経済法として企業間の違法な取引慣行全体を是正する役割を果たします。
刑法が個人の処罰に重点を置くのに対し、独占禁止法は市場全体の健全性を保つための制度として位置づけられています。
官製談合防止法の規定
官製談合防止法 (入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律)は、国・地方公共団体・特定法人の職員が入札談合に関与する場合(いわゆる「官製談合」)を防止するために制定された法律です。
官製談合防止法は、それまでの刑法・独占禁止法では対象にできなかった行政側が関与する談合に対して、法的措置を講じる必要があったことを背景としています。
官製談合の具体例として、特定の業者に入札上有利になる情報を漏らしたり、受注予定者を指名したりするような行為が該当します。
第二条(定義)
5 この法律において「入札談合等関与行為」とは、国若しくは地方公共団体の職員又は特定法人の役員若しくは職員(以下「職員」という。)が入札談合等に関与する行為であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 事業者又は事業者団体に入札談合等を行わせること。
二 契約の相手方となるべき者をあらかじめ指名することその他特定の者を契約の相手方となるべき者として希望する旨の意向をあらかじめ教示し、又は示唆すること。
三 入札又は契約に関する情報のうち特定の事業者又は事業者団体が知ることによりこれらの者が入札談合等を行うことが容易となる情報であって秘密として管理されているものを、特定の者に対して教示し、又は示唆すること。
四 特定の入札談合等に関し、事業者、事業者団体その他の者の明示若しくは黙示の依頼を受け、又はこれらの者に自ら働きかけ、かつ、当該入札談合等を容易にする目的で、職務に反し、入札に参加する者として特定の者を指名し、又はその他の方法により、入札談合等を幇ほう助すること。
これらに該当する場合、職員には5年以下の懲役または250万円以下の罰金が科され、必要に応じて懲戒処分の対象ともなります。
また、公正取引委員会が職員の関与を認定した場合、所属組織に対して組織的な改善措置の勧告を行うこともできます。
過去の事例から見る入札談合の実態と変化
かつて談合が常態化していた時代背景
かつての公共入札の現場では、入札談合が“業界の慣行”として定着していた時代がありました。
特に1990年代以前の公共工事では、地元の建設業者間で受注の順番を調整する「輪番制」や、落札予定者を事前に話し合いで決める「事前協議」といった慣例が存在し、それらが地域経済の安定や発注の円滑化といった理由で正当化する風潮も見られました。
発注機関側も、こうした談合的な仕組み関与しないことで、入札制度の透明性や公正性は制度上・運用上ともに十分とは言えない状況でした。
制度改革と監視体制の強化による変化
1990年代初頭から中盤にかけて、大手建設業者(ゼネコン)を巻き込んだ大規模な談合事件や汚職事件が相次ぎ、公共入札制度に対する国民の信頼は大きく揺らぎました。
また、同時期に行われた米国政府との経済交渉(日米構造協議、日米建設協議)においても、談合の撤廃や調達市場の開放が強く求められました。
こうした背景から、1990年代後半から2000年代にかけて入札制度改革は急速に進められました。
制度面では、入札参加資格制度の審査基準の厳格化、一般競争入札の原則化、総合評価落札方式の導入、さらには独占禁止法改正による課徴金算定率の引き上げと課徴金減免制度(リーニエンシー制度)の導入などが行われました。
これにより、談合発覚時の法的・経済的リスクが高まり、企業のリスク認識が大きく変化しました。
また、発注者による入札不正についても、2000年に発覚した北海道上川支庁事件を契機として、2002年にいわゆる官製談合防止法が制定され、2003年に施行されました。
この法律により、行政職員による情報漏洩や受注誘導などの行為も、刑事罰および行政処分の対象として明確に位置づけられるようになりました。
こうして制度改革と監視体制の強化が進められたことで、談合の常態化を許さない環境が着実に整備されていきました。
現在の入札制度は、広く開かれ公平な制度
入札制度は、2000年代以降の制度改革によって大きく変わりました。
現在では、公平性・透明性・開放性を重視した運用が徹底されており、以前のような閉鎖的・不透明な調達環境とは一線を画しています。
一般競争入札の拡大と透明性の向上
入札制度改革の柱の一つが、「一般競争入札」の普及です。
従来は「指名競争入札」が主流で、発注者から指名された複数の業者によって行うため、特定業者に偏った受注が続く温床ともなっていました。
こうした問題を是正するため、制度改革により誰でも条件を満たせば参加できる「一般競争入札」が原則となり、現在では国・地方自治体ともにこの方式が主流となっています。
一般競争入札では、案件情報が公告され、仕様書・契約条件・質問回答・落札結果までを含めた一連の情報が基本的にWeb上で確認できるようになっています。このように、入札プロセスの透明化が徹底されたことで、不公正な取引の余地は大きく縮小されました。
また、電子入札の導入も進み、応札から開札、結果公表に至るまで一元的な管理が行われるようになりました。これにより、人的な裁量や情報格差の影響を受けにくくなり、公正な競争環境の確保につながっています。
総合評価方式の導入により「価格だけで決まらない」仕組みへ
もう一つの大きな変化は、「価格以外の要素」も評価の対象とする総合評価落札方式の拡大です。
従来の入札制度では「最も安い価格」を提示した事業者が自動的に落札者となる「価格競争型」が主流でした。
しかし、発注者側の「きちんとした業者に施工してもらいたい」「安かろう悪かろうでは困る」という思惑がゆえに、官製談合を引き起こしやすいという課題もありました。
そのため、現在では、価格に加えて以下のような要素を加味した総合評価方式が導入されています。
- 技術提案・実績・体制
- 納期・運用能力・安全管理計画
- 地元企業の活用度・雇用貢献などの地域性
- 環境対応・BCP(事業継続計画)などの社会的配慮
これにより、単なる価格競争ではなく、より高品質かつ社会的価値のある事業者が選ばれる仕組みが整えられています。
特に専門性の高い分野や、住民サービスに直結する公共事業においては、こうした複眼的な評価が重視される傾向にあります。
地域の中小企業にも広がる参入機会
入札制度改革の目的の一つに、地域経済の活性化があります。
従来は規模や実績で大手企業に偏りがちだった受注構造を見直し、地域の中小企業が公共入札に参入しやすくする工夫が進められています。
例えば、小額案件を中心に参加資格を地元の中小企業に限定する等の動きがあります。
これにより、建設業・物品調達・役務提供など幅広い分野で、地域の中小・零細企業が実際に入札で受注を獲得する例が数多く見られるようになりました。
公共入札は、単なるコスト削減手段としてだけでなく、地域企業の育成や雇用の確保といった地域経済への貢献も期待される手段へと変わりつつあります。
「入札=談合」は過去の話!前向きに入札に参加しよう
かつては「入札」と聞くと、「どうせ談合があるのでは」といった不信感を抱く方も少なくありませんでした。
しかし、こうした状況は1990年代以降の制度改革によって大きく変化しました。
現在では、談合を抑止するための制度が整備され、入札は健全な競争の場として運用されています。
そのため、入札は企業にとって公正・公平に新たな販路の獲得や安定的な収益源の確保につながる有望なビジネス機会であると言えます。自社のサービスや製品が公共の場で役立つ可能性を感じたなら、入札への第一歩を踏み出す価値は十分にあります。
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