包括連携協定とは?締結する意義やメリット・デメリットを解説

包括連携協定とは?締結する意義やメリット・デメリットを解説

Point

  • 包括連携協定とは自治体と企業が広範に協力する枠組み
  • 地域課題解決のため、自治体が民間企業にノウハウを求める
  • 双方にメリットがあるが直接契約には繋がらない

官民連携の手法のひとつとして「包括連携協定」があります。
最近はニュースリリースや自治体のホームページなどで目にする機会が増えていますが、具体的にどのような枠組みなのか、実際に何ができるのかがわかりにくいと感じられるのではないでしょうか。
そこで本記事では、包括連携協定の概要や仕組み、締結の目的、活用時の注意点などを整理したうえで、実際のビジネスにどのように繋げることができるのかをわかりやすく解説します。

包括連携協定とは何か?

包括連携協定とは、自治体と民間企業・大学などが福祉・防災・観光振興・環境保全など複数分野で継続的に協力する枠組みをいいます。

地域課題を横断的に解決するために「何を一緒に進めるか」を網羅的に取り決める点が特徴です。

包括連携協定以外にも、特定分野でのみ連携するために協定を締結する場合があります。この場合は、包括連携協定と区別するための「個別協定」「分野別協定」などと呼びます。

導入が進む背景

全国の自治体は、様々な社会課題が多様化・複雑化する事態に直面しています。

課題解決のためには、既存の取組みを継続するのみならず、社会課題を根本から解決する取組みが求められています。

その上で、限られた人員・予算等のリソースで福祉・防災・環境など多岐にわたる必要な行政サービス(インフラ)を適切な水準で維持しなければいけません。

こうした中、民間のノウハウを行政サービスに取り入れようとする動きが活発になりました。具体的には、PPP(Public Private Partnership/官民連携)の概念のもと、指定管理者制度やPFI(Private Finance Initiative/民間資金活用による社会資本整備)に関する法整備がなされ、導入が進みました。

PPPの推進に伴い、民間企業や大学と幅広い分野で協力する枠組みとして「包括連携協定」が注目されるようになりました。個別具体的な事業の実施を前提とせず幅広い分野で民間企業の協力を得られることから、民間のノウハウを活用する制度的な受け皿として導入が進みました。

包括連携協定は企業にとっても大きなメリットがあります。特にCSRやSDGs(持続可能な開発目標)といった企業の社会貢献活動の一環として、自治体との連携が注目されるようになっています。

協定を通じて地域に根ざした課題解決に取り組むことは、単なる寄附や奉仕活動ではなく、自社の技術やサービスを活用した「本業を通じた社会貢献」として評価されます。
こうした活動は、企業ブランドの向上や地域住民・取引先・従業員からの信頼確保にもつながります。

自治体側と企業側のメリット

包括連携協定導入の背景には、自治体・企業それぞれがお互いに距離を縮めることで双方にメリットがあることを説明しましたが、ここでは、自治体側・企業側それぞれのメリットを整理して解説します。

自治体のメリット

専門性の導入

第一に、専門性の導入が挙げられます。

自治体の人材育成・人事異動方針は依然としてゼネラリスト志向が強い面があります。

各分野において事業の企画・立案をする際、担当職員のみでは専門的知識が不足する場面があります。こうしたときに、民間企業との協定を活用してある分野・業界に関する情報提供を受けたり、試験的な取組みを実施することで専門的知識を補完することが可能になります。

しかしながら、企業の協力は善意による面があります。高度に専門的な研究・企画を伴う場合は、予算を確保したうえで事業として発注されることが通常です。その場合の発注先は協定締結先に限定されず、一般競争入札などにより決定されます。

財政負担の軽減

自治体にとっては、民間企業側に一定のメリットを提供しつつ、予算の支出を伴わずに、広報や企画立案などで民間企業の協力を得ることが可能になります。

包括連携協定に基づく取組みは、契約に関する法規定に抵触しないよう、金銭の授受が伴わない関係と整理する場合がほとんどです。

そのため、自治体は民間企業の協力が得られる限りにおいて無償で協力を得られるため、行政サービスの改善の財政負担が軽減されているとも言えます。

地域課題への新しい視点

民間ならではのマーケティング視点などを通じて、行政とは異なるアプローチが可能になります。民間企業は一般に、顧客ニーズを把握する力や商品・サービスの見せ方に長けており、住民目線に立ったアウトプットを得意とします。

行政のみでの企画立案では、他部局の取組みを横展開する場合が多く見られますが、住民視点でどのようにアプローチすることが効果的か、新しい視点を得られる可能性があります。

企業側のメリット

CSR・SDGsへの貢献

まず、CSRやSDGsの可視化と外部評価の向上が挙げられます。企業単独での社会貢献活動は、外部からその実績が見えにくいという課題がありますが、自治体と協定を結ぶことで、取り組み内容が行政の広報誌やプレスリリースなどを通じて可視化されやすくなります。

これにより、取引先や株主、金融機関といったステークホルダーに対して、社会的信頼のある企業であることを明確に伝えることができます。

広告・ブランド効果

次に、ブランディング・広告効果です。企業が包括連携協定に基づく活動を通じて地域課題の解決に寄与した場合、その成果は地元メディアや行政の公式広報に掲載されることが多く、企業名やブランドの認知向上につながります。

特に地場企業にとっては、地元住民との信頼関係を築く上で大きな意味を持ちます。

新規市場の開拓

さらに、新たな市場や事業機会への足がかりとなる可能性があります。

包括連携協定に基づく取組みにより信頼性・権威性を獲得し、自治体との協業実績を基に提案型営業の糸口とすることなどが考えられます。また、自治体との取組みを通じて新たなサービスの開発につながることもあります。

デメリットと留意点

包括連携協定は自治体・企業双方に多くのメリットがありますが、実際の運用においては一定のデメリットや留意すべき点も存在します。

協定を締結する際には、形式的な合意に終始せず、実効性ある枠組みとするための具体的な配慮が求められます。

費用対効果が悪い場合もある

包括連携協定の多くは、企業側が無償でサービスや知見を提供する形で取組みが行われます。

例えば、販促品に自治体PRを掲載するケースや、実証実験の一環として製品や人材を無償提供する例もあります。しかし、その後に有償の事業受注に結びつく保証はなく、実質的に「持ち出し」になってしまうことも珍しくありません。

特に、協定締結をプレスリリースやCSR報告書で公表したものの、実働が伴わず担当者の労力だけが増大してしまう、といったことも懸念されます。

連携事項が抽象的で成果が見えにくい

包括連携協定は、その名の通り“包括的”な連携を目的とするため、文面上の連携事項が「地域活性化に関すること」「健康増進に関すること」など抽象的・網羅的に記載されるケースが多く見られます。

その結果、実際に何を、どのタイミングで、どのように取り組むのかが不明確なまま時間が経過するリスクがあります。

なお、自治体によっては、包括連携協定による取組みのワークフローを定め、定期的に会議の場を設け目標設定を行っている場合もあります。

包括連携協定を理由に事業発注は行われない

誤解されがちですが、包括連携協定を締結したからといって、そこから直ちに事業発注や契約に結びつくものではありません

あくまでも協定は、行政と民間が協働を行う意思を確認する枠組みです。行政から予算の支出を伴う業務委託等が発生する場合には、地方自治法第234条に基づく別途の入札・随意契約等の手続きが必要になります。

そのため、企業側としては「協定を結べば事業を受託できる」といった過度な期待を持つのではなく、むしろ協定を起点に自社サービスの販路拡大に取組むことや、今後発注される可能性のある業務の分野や傾向を把握する情報源として位置づける姿勢が重要です。

成功のポイント

包括連携協定が形式的なものにとどまらず、企業にとっても持続可能な取り組みとなるためには、以下のようなポイントを押さえておくことが重要です。

キャッシュポイントの明確化

包括連携協定では、企業側が一定の無償活動を担うケースも多く見られますが、無償提供だけでは中長期的な継続が困難になることがあります。

そのため、協定に基づいた活動を通じてどこで収益化(キャッシュポイント)を設定するかを明確にしておくことが不可欠です。

たとえば、自社サービスの無料体験を通じて自治体のニーズを把握し、将来的に個別委託契約や入札参加につなげることを見越して行動するケースがあります。

また、社会貢献活動としてのブランド価値向上を活用し、PR効果による売上拡大や企業評価の向上をキャッシュポイントと捉える企業もあります。

重要なのは、活動内容と収益につながる導線をあらかじめ設計し、費用対効果を“見える化”できる体制を整えておくことです。これにより、社内の経営判断や活動の継続可否を合理的に行うことが可能になります。

連携内容の実施可能性と範囲を行政と確認する

包括連携協定の文言は「地域活性化」「防災・減災に関すること」「子育て支援に関すること」など抽象的な表現で記載されることが一般的です。

そのため、実際にどのような活動を協定に基づいて行えるのか、行政との間で事前にすり合わせておくことが極めて重要です。

たとえば、企業側が行政と共催でイベント開催や物品配布を考案しても、行政側が他社との公平性を考慮して実行にストップをかける場合もあります。

包括連携協定による取組みは、入札手続のように公平性等を担保する仕組みが整備されている訳ではありませんので、より一層慎重に行政との調整が重要です。

また、活動における役割分担(誰が何をするか)や使用できる行政資源(公共施設、広報媒体など)についても、事前に具体的に合意しておくことで、スムーズな運用につながります。これにより、企業にとっての無駄な準備コストや誤解に伴うトラブルを防止することができます。

包括連携協定と入札の関係

地方自治体が行う契約事務は、地方自治法第234条で「売買・貸借・請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とされています。

このとき、「包括連携協定も自治体との間で協力事項を取り決めて文書を交わすのだから契約になるのでは」との疑問が浮かびます。

実際のところ、包括連携協定を「行政と事業者の意思表示を行う覚書」と整理し、公費を伴う事業は協定の対象外であると明記されているケースが一般的です。

すなわち、包括連携協定そのものは地方自治法234条の競争契約手続きの枠外で締結することが可能です。

ただし、協定から派生して実費を伴う業務委託や物品購入が生じる際には、改めて入札・契約手続を行う必要がある点に留意しましょう。

協定による取組みから事業が立ち上がり、入札・契約手続を行うことになった場合も、入札・契約手続は通常と変わりません。そのため、協定を締結した事業者が有利という訳ではなく、設定された入札参加資格や仕様などの要件下で、参加意欲のある企業との競争により受注者が決定します。

まとめ

包括連携協定は、自治体と企業が幅広い分野で協働するための有効な枠組みとして、全国的に導入が進んでいます。

行政側にとっては専門性や技術力の導入手段となり、企業側にとってはCSRの実践やブランディング、新たな事業機会の創出につながるなど、双方にとって多くのメリットがあります。

しかしながら、連携協定はあくまでも「意思表示の覚書」であり、締結したこと自体が直接的な受注や契約につながるものではありません。自治体の発注業務として実施する場合は、別途、地方自治法に基づく入札や契約手続きが必要です。

そのため、包括連携協定を検討している場合は、協定による自社のメリット・デメリットを整理し、どこでキャッシュポイントを作るかを設計することが重要です。

特に、協定を起点に自治体に事業提案をして受注を目指す場合は、他自治体での事業事例を把握しておくことが有効です。

その際に役に立つのが『NJSS(入札情報速報サービス)』です。全国8,900以上の自治体・公的機関の入札情報を横断的に検索でき、過去の入札案件や落札企業の動向も把握できるため、自社の提案戦略を検討するうえでの参考資料として活用できます。

包括連携協定を「きっかけ」に新たな事業機会を広げたいとお考えであれば、NJSSの無料トライアルを活用して、自社の事業領域において全国の自治体でどのような案件があるのか確認してみることをおすすめします。

国内最大級の入札情報サイト

  • 掲載機関数8,900以上
  • 掲載案件数年間180件以上
  • 落札結果1,800件以上
無料トライアル 無料セミナー 無料e-Books