- 総合評価落札方式とは価格と価格以外の要素で総合的に評価する仕組み
- 最低価格だけでなく、技術力、実績、社会貢献度などが加味される
- 提出書類が増えるが、中小企業も提案で受注を目指せるメリットがある
省庁や自治体の入札情報を見ていると「一般競争入札(総合評価方式)」や「指名競争入札(総合評価方式)」といった記載を見ることがあると思います。
これらは、単に最も安い価格を提示した事業者が落札する「最低価格方式」とは異なり、価格に加えて技術力や実績などの要素を加味して総合的に評価する仕組みです。
本記事では、総合評価落札方式の基本から導入の背景、評価のしくみ、メリット・デメリット、実際の入札手続きの流れまでをわかりやすく整理しています。
中小企業が総合評価案件で受注を目指す際に押さえておくべきポイントも紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
もくじ
総合評価落札方式とは?
総合評価落札方式とは、入札価格以外の要素(技術力、実績、社会貢献度など)を総合的に評価し、最も優れた提案を行った事業者を落札者として決定する方式です。
従来からある価格競争による落札者決定(最低価格落札方式)では、入札額が最も低い事業者が落札者となります。価格競争による落札者決定は、行政が最少の費用で必要な調達を行うことができる方法ですが、デメリットとして品質や安全性の確保が難しくなるという課題が指摘されてきました。
これに対し、総合評価落札方式では、価格の安さだけでなく、技術提案の内容や履行能力、社会貢献の状況など多様な要素が加味されるため、価格以外の観点からも適切な事業者を選定できる仕組みとなっています。
導入の背景と目的
総合評価落札方式は、公共調達の現場で長年課題となっていた「ダンピング(過度な低価格入札)」や「品質低下」といった問題に対応するため整備された評価方式です。
特に、入札で調達する内容が研究開発等の技術的要素も重要な場合、価格のみで落札者が決定する方式では期待した成果が得られないことも考えられます。
ダンピングの抑制と品質確保
最低価格落札方式では、特に官公庁からの受注実績を得たい事業者が落札のために必要以上に価格を引き下げる場合がありました。
これにより、結果的に薄利での受注、手抜き工事、労働環境の悪化といったリスクが発生しやすくなります。
こうした状況では、行政もたとえ安価で契約できたとしても成果物の品質を見通せないことから、一定の技術力・信用のある事業者を指名して入札を行う指名競争入札を中心に調達を行ってきました。
一方で、指名競争入札は入札不正(談合)の温床との指摘もされていました。
発注機関の職員としても価格競争により調達を安い価格で実施出来た方が良いのですが、それ以上に発注した工事等が計画通りのスケジュール・品質で完成しないことのリスクに強い関心があります。
そうした心理的背景に「つけ込まれて」、滞りなく業務を完成させることと引き換えに、指名業者間での談合が行われていました。
こうした背景から、価格以外の要素も評価する総合評価落札方式が1990年代後半から試験的に導入されていき、平成17年4月1日に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律(いわゆる「品確法」)」によって適用が進みました。
総合評価落札方式のメリット
総合評価落札方式は価格以外の要素も含めて落札者を選定する方式であるため、発注者・事業者・地域社会のそれぞれにとって様々なメリットがあります。
発注者のメリット:調達品質の向上
発注者側にとって最大の利点は、単なる価格競争では得られない「質の高いサービスや成果物」の実現です。
総合評価落札方式では、技術力、実績、体制などが審査項目に含まれるため、一定の水準以上の事業者が選ばれる仕組みになっています。
前述のとおり、発注者は調達価格以外にも、その調達が計画通りに実施されるか否かについて強い関心があります。
総合評価落札方式が導入されることで、入札不正の温床との指摘があった指名競争入札ではなく一般競争入札で広く競争を行いつつ、価格以外の要素も評価して落札者を決定することができるようになりました。
事業者にとってのメリット:技術力で競争できる
事業者にとっては、単に価格を下げるだけでなく、自社の強みを技術提案書などでアピールできる点が大きなメリットです。
たとえば、特殊技術や過去の実績、工法の提案などを適切に評価してもらうことで、価格競争に自信がない企業でも受注の可能性が生まれます。
また、案件によっては地域貢献の状況なども評価対象になります。そのため、中小企業や地元企業にとっても、大きなチャンスとなることがあります。
地域・環境にとってのメリット:新技術や環境配慮の促進
評価項目に「環境負荷の低減」「地域貢献度」などが含まれることも多く、事業の実施による社会的な波及効果が期待できます。
たとえば、再生資材の活用、省エネ設計、地元人材の雇用といった観点が加点対象となることで、地域経済の活性化や持続可能な開発が促進されます。
また、環境対策が入札条件の一部になることで、事業全体のエコ対応も加速します。
総合評価落札方式のデメリット
総合評価落札方式は、価格と技術をバランスよく評価できる一方で、発注者・受注者の双方に一定の課題や負担をもたらす制度でもあります。
以下では、具体的なデメリットとその背景について整理します。
事業者側の事務負担が大きい
事業者(入札参加者)にとっては、入札時に提出する技術提案書の作成が大きな負担となります。
特に企業によっては、書類作成のための人員やノウハウが不足する場合もあり、入札参加そのもののハードルが高くなる要因にもなり得ます。
また、発注者によって評価項目や加点の考え方が異なるため、案件ごとに戦略を練り直す必要があり、準備コストの増大が避けられません。
評価基準の策定に手間と時間がかかる
発注機関にとって最大の課題の一つが、評価基準や配点の設計(事務負担)です。
従来の最低価格方式に比べ、評価項目の選定や基準の明文化に専門的知識が必要とされ、内部調整や制度設計に時間と労力を要します。
さらに、評価の公平性を保つための基準整備や外部有識者の関与が必要となることもあり、制度導入・運用におけるコストは無視できません。
技術評価による審査期間の長期化
総合評価落札方式では、入札価格に加えて、技術提案書や過去の実績、体制などの書類審査が必要です。
そのため、入札公告から落札者決定までの期間が長期化する傾向にあります。履行期限に余裕がない案件の場合、総合評価落札方式により実施することで契約時期が後ろ倒しとなり、十分な履行期間が確保できないおそれがあるため、入札への参加を見送る事業者が出る可能性もあります。
評価の透明性・妥当性への懸念
評価の客観性を確保するための仕組みは整備されていますが、それでも「なぜこの企業が落札できたのか」という疑問が残るケースがあります。
とくに、加点の根拠や配点結果が明示されない場合、透明性への懸念が残ることも少なくありません。発注者にとっては、外部からの説明責任が問われる場面も想定されます。
総合評価落札方式の評価方法(加算方式・除算方式)
総合評価落札方式では、「価格」と「技術評価(加点項目)」の両方を基に落札者を決定します。
評価方法は大きく分けて「加算方式」と「除算方式」の2つがあり、案件の内容や規模に応じて使い分けられています。
加算方式:技術点と価格点を足し合わせて評価
★加算方式の評価点=価格評価点+技術評価点
加算方式は、あらかじめ設定された入札価格を数値化した「価格点」と、同様に価格以外の評価要素を点数化した「技術評価点」の合計によって、総合評価点を算出する方式です。
たとえば、価格点50点・技術点50点の計100点満点で構成される場合、それぞれの配点比率に基づいて評価が行われます。
除算方式:技術点を価格で割って費用対効果を評価
★除算方式の評価値=技術評価点÷入札価格
除算方式は、「技術評価点 ÷ 入札価格」で算出された値を評価値として比較する方式です。技術点が高く、かつ価格が抑えられている提案が高評価を得る仕組みになっています。
この方式は、技術的難度が高く、提案の内容が工事の品質や安全性に直結する大規模工事に適用されることが多いです。たとえば、施工方法や工程管理、安全対策に関する具体的な提案を行い、その内容の妥当性・有効性を評価の基準とします。
除算方式の特徴は「相対的な技術力のコスト効率」を比較できる点にあります。ただし、分母である価格が小さい場合に評価値が大きくなり低価格応札を引き起こすリスクもあります。そのため、一定の価格下限(低入札調査基準価格など)が設けられることがあります。
評価項目の例と配点傾向
評価に使用される技術点の項目は、案件の種別により異なりますが、次のような項目が一般的です。
- 技術力・ノウハウ
- 責任者・担当者の保有資格・経験
- 事業実施方針
- 実施体制
- 危機管理体制
- 環境への配慮の状況
- 障害者雇用の状況
- 仕事と家庭の両立支援に関する状況
- 地域貢献の状況
これらの項目に応じて、加点方式では合計得点に加算され、除算方式では技術点の一部として評価値に反映されます。
総合評価落札方式の流れ
総合評価落札方式では技術評価を行い、価格とは異なり定性的な要素も評価対象に含まれます。
技術的な評価が含まれるため、通常の価格競争による入札方式と異なり、入札に参加するためには技術資料の提出が必要になります。これを受けて、発注者は事業者による入札後に「価格・技術の評価」を行います。
一方で、発注者側には配点・評価方法等について説明責任・透明性が求められることになります。
そのため、総合評価落札方式では「評価基準の決定」「落札者の決定」のプロセスで学識経験者から意見を聞くこととされています。
ここでは、発注から契約締結までの主な流れについて解説します。
入札公告
総合評価落札方式の入札公告では、評価項目や配点基準、評価方式(加算方式・除算方式)などを明示した資料が公開されます。
入札公告では、技術提案書が必要となる旨や提出期限などの詳細も併せて示されるため、事前の情報確認が不可欠です。
なお、この評価基準は、総合評価落札方式が定性的な要素も評価することになり評価の透明性が一層求められることから、学識経験者から意見を聞いたうえで決定されます。
技術提案書の作成・提出
公告内容に基づき、入札参加希望者は技術提案書を作成し、指定された期日までに提出します。
提案書には、施工体制、同種工事の実績、安全・環境対策、配置予定技術者の経歴など、評価対象となる要素を具体的に記載します。
書類の完成度や記載内容の明確さが評価に直結するため、指定された形式の範囲内で定量的なデータや写真等の資料を添えることが推奨されます。
技術評価(ヒアリングを伴う場合あり)
提出された提案書は、発注機関の評価委員会などにより審査されます。
評価はあらかじめ公表された評価項目と配点基準に基づき行われます。
価格評価と総合評価
技術評価が完了すると、価格開札が行われます。その後、各入札者の価格点と技術点を組み合わせて総合評価点が算出され、最も高得点の事業者が落札候補となります。
落札者の決定・契約締結
最も高い総合評価点を獲得した事業者が落札者として選定され、契約手続きに進みます。なお、技術点・価格点のいずれかが最低限の基準に満たない場合は失格となることがあるため、事前に要求水準を正確に把握しておくことが不可欠です。
中小企業が勝つための3つのポイント
総合評価落札方式では技術資料を作成する必要があり、価格競争方式よりも入札参加に手間がかかるため、大手企業が有利に見えるかもしれません。
しかし、中小企業であっても、評価項目を正しく把握し、戦略的な対策を講じることで十分に落札を狙うことが可能です。
ここでは、中小企業が総合評価落札方式で競り勝つために押さえておきたい3つのポイントを解説します。
評価項目の重点を把握する
総合評価方式では、案件ごとに評価項目と配点が異なります。
まずは入札公告や技術提案要領などを確認し、特に重視される評価項目を把握することが重要です。
例えば、受注者の技量によって成果物の品質に差が生じると思われる性質の工事等は技術提案の配点が高くなることが考えられます。
一方で、技術的な工夫の余地が少ない工事等は、類似工事の施工実績など過去の実績に関する配点が高くなることが考えられます。
提案書の見やすさと根拠データの提示
技術提案書の読みやすさは、審査員の理解度に直結します。図表の活用や箇条書きによる整理、明確な見出しの配置など、視認性の高いレイアウトを意識しましょう。
また、主張を裏付けるデータや実績資料の添付も有効です。たとえば、「過去の同種工事の施工件数」や「第三者機関による評価」など、客観的な情報を示すことで説得力が高まります。
過去の落札結果から傾向を分析する
同様の案件における過去の落札結果を調査することで、評価の傾向や発注者の重視ポイントを把握できます。入札情報収集サービスを活用すれば、過去の評価点や提案内容の概要なども含めた詳細な分析が可能です。
このような情報をもとに、自社の強みをどう訴求すべきかを戦略的に練ることが重要です。
NJSSで総合評価案件を探す方法
総合評価落札方式など行政が行う入札に参加する場合、案件が公示されたら素早く応札に向けた準備を行うことが重要です。
しかし、省庁・自治体の入札情報サイトは個別に通知する機能を有していない場合がほとんどであり、自社にマッチする案件を毎日確認することは非常に手間がかかります。
ここではNJSSを活用して総合評価案件を効率的に見つける方法を解説します。
キーワードとフィルタを使って検索精度を高める
総合評価落札方式の入札案件は案件名に「総合評価」などのキーワードが含まれる場合が多いので、キーワード検索で該当案件を抽出することが可能です。
また、「資料内全文検索」機能を活用し、各案件の公示書・仕様書・その他資料のテキストを対象にキーワード検索ができます。この機能で「技術資料」「技術提案書」等のキーワード検索を行うことでも、総合評価方式が採用されている案件を短時間で見つけることが期待できます。
その他、発注機関の種類(国、都道府県、市区町村)や業種(建設工事、物品調達、委託業務など)、地域などの条件を組み合わせてフィルタリングすることで、自社の事業領域に合った案件だけを表示することが可能です。
メール通知機能を活用
NJSSには、あらかじめ設定して頂いた検索条件(キーワード・エリア・業種・入札資格・発注機関・入札形式・認証資格)に合致した案件がNJSS内に収集されると、メールで通知されるサービスがあります。
メールの配信は毎日行われますので、チェック漏れや公示から期間が経っていて準備の時間が確保できないといった心配を減らすことができます。
無料トライアルと相談で初めての方も安心
NJSSは有料のサービスですが、無料トライアルが用意されており、実際の検索機能や入札データを閲覧することができます。
また、総合評価案件に特化したキーワードの設定や、フィルタ条件のカスタマイズ方法などもサポートを通じてアドバイスを受けることができ、導入初期から効果的な活用が可能です。
まとめ
総合評価落札方式は、価格だけでなく技術力や実績なども評価して落札者を決める入札方式です。品質確保と価格のバランスが取れた調達を目的に、国や自治体で広く導入が進んでいます。
一方で、評価項目の把握や提案書の準備には相応の労力がかかります。競合企業の参入状況を把握したり、落札価格の水準を調べるなど事前の情報収集と傾向分析が欠かせません。
NJSS(入札情報速報サービス)を使えば、全国の総合評価案件をキーワードやフィルタで効率的に検索でき、過去の落札結果も簡単に確認できます。
中小企業の入札戦略にも役立つため、まずは無料トライアルを活用して効果を体感してみてください。
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