- 歩引きとは、請求金額から一定割合(歩引率)を差し引いて支払う取引慣行
- 取適法(旧:下請法)により厳格に禁止されている
- 似た言葉の「歩切り」は、公共工事の積算額から合理的な理由なく一定額を差し引いて予定価格を下げる行為を指す
歩引きとは、請求金額から一定割合を差し引いて支払う取引慣行を指す言葉です。かつて一部の業界で見られた慣行ですが、現在は取適法(旧:下請法)に抵触する可能性があり、コンプライアンスの観点からも注意が必要です。
本記事では、歩引きの意味や仕組みを整理し、なぜ問題になるのか、取適法(旧:下請法)との関係、実務で見られるトラブルの例などを解説します。また、似た言葉として使われることのある公共工事の「歩切り」との違いについても整理します。
企業間取引や官公庁案件に関わる担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
もくじ
「歩引き」とは
「歩引き(ぶびき)」とは、請求金額から一定の割合を差し引いて支払う取引慣行です。取引価格そのものを変更するのではなく、請求金額に対して一定割合を差し引いた額を実際の支払額とします。この控除の割合は「歩引率」と呼ばれます。
歩引きは、取引慣行として過去から存在してきたものですが、現在では取引の公正性との関係で問題になることがあり、後述するように取適法(旧:下請法)との関係で議論されることが多い概念です。
歩引きの計算例
具体的な計算例で、歩引きの仕組みを解説します。
- 契約額・請求額:100万円
- 歩引率:2%
- 振込額:98万円
この場合、請求書に記載された金額は100万円ですが、支払時に2万円が差し引かれるため、実際に振り込まれる金額は98万円です。
「歩引き」と「値引き」の違い
歩引きと似た言葉に「値引き」がありますが意味は異なります。
値引きとは、商品やサービスの価格そのものを引き下げることを指します。
例えば、当初100万円で提示されていた価格を98万円に変更して契約する場合、当然ながら請求額も契約額に合わせて98万円になるのが通常です。値引きにより、契約価格自体が98万円に変更されているためです。
一方、歩引きは契約価格そのものを変更するものではありません。請求額は100万円のままでありながら、支払時に一定割合が差し引かれるため、結果として支払金額が減少します。
「歩引き」が問題になる理由
取引慣行としての「歩引き」
歩引きは、企業間取引の中で長く見られてきた商慣行の一つとされています。
特に繊維業界などの流通取引では入金までの期間が長期化することが多く、請求に対する早期入金の見返りとして一定割合を差し引く方法が用いられていたとされています。例えば、通常は数か月後に支払われる代金について、早期に支払う代わりに数%を差し引くといった形です。
しかし、実務では早期支払の有無にかかわらず請求額から一定割合が差し引かれる場合や、取引先の立場の強弱によって差し引き条件が事実上受け入れざるを得ない場合があり、問題視されるようになったとされています。
歩引きによるトラブルの原因は「一方的な差し引き」
歩引きが問題視される大きな理由は、請求金額からの差し引きが「一方的に」行われやすい点にあります。
契約時に明確な合意がないまま、納品後や請求後に差し引きが行われる場合、受注者にとっては当初想定していた代金よりも少ない金額しか受け取れないことになります。
現在「歩引き」は下請法による規制の対象
企業間取引の公正性を確保するため、今日では一定の取引行為が法律で規制されています。
かつては下請代金支払遅延等防止法(いわゆる下請法)によって、2026年1月以降は下請法の改正により施行された「中小受託取引適正化法(通称: 取適法)」によって、中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護が図られています。
取適法では、中小受託事業者(下請法でいう「下請事業者」)に対して、発注時に定めた下請代金を後から減額することを禁止しています。歩引きのように請求金額から一定割合を差し引く行為は、その内容によってはこの「下請代金の減額」に該当する可能性があります。
「歩引き」と取適法(旧:下請法)による規制
歩引きが問題となるのは、企業間の立場の強弱による一方的な減額である点はもちろんですが、法的にも取適法(旧:下請法)で禁止されている「代金の減額」に該当する可能性があるためです。
歩引きは請求金額から一定割合を差し引いて支払う仕組みであるため、その運用方法によっては取適法に抵触するおそれがあります。
代金の減額の禁止(法第5条第1項第3号)
取適法第5条第1項第3号では、次の行為が禁止されています。
三 中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずること。
この規定は、発注時に決めた代金を後から減額することを禁止するものです。例えば、契約時に100万円で発注したにもかかわらず、納品後や請求後に「歩引き」として一定割合を差し引く場合、実際に支払われる金額は100万円を下回ることになります。
名目を変えた差し引きでも違反となる可能性
取適法では、減額の名目は問われません。公正取引委員会の運用でも、形式ではなく実質的に代金が減っているかどうかが判断基準とされています。
公正取引委員会の取適法に関するQ&Aでは「業界で慣行として行われていることであっても、差し引く名目にかかわらず、発注時に決定した代金の額を発注後に減ずることは本法違反となる。」とされています。
振込手数料の差し引きの扱い
よくある疑問として、代金を銀行振込で支払う際に振込手数料を差し引いて支払うケースの取扱いの可否があります。このような取扱いも取適法の規定に抵触する可能性があります。公正取引委員会が公表しているQ&Aでは、次のように示されています。
取適法では、例え両者の合意があったとしても、発注時に定めた代金を減額することなく支払うことを求めています。
振込手数料を代金から差し引くと、結果として契約で定めた金額より少ない金額しか支払われないことになります。このため、振込手数料の差し引きは「代金の減額」として評価される可能性があります。
「歩引き」に関するトラブルの具体例
これまで解説したとおり、歩引きは取適法(旧:下請法)で禁止されている「代金の減額」に該当する可能性があります。ここでは、歩引きに該当し得る具体例を紹介します。
契約後に歩引きを求められる場合
一つ目は、契約締結後になってから歩引きが求められる場合です。例えば、発注時には取引価格のみが合意されており、支払時の差し引きについて特段の説明がなかったにもかかわらず、契約締結後に「支払時に○%を差し引く」といった条件が提示される場合があります。
このような場合、契約時に確定した取引価格と実際の支払額が一致しないことになり、取適法上の「代金の減額」に該当する可能性があります。
手数料等の名目で控除される場合
二つ目は、「歩引き」という名称を用いず、手数料などの名目で請求金額から差し引きが行われるケースです。
前述の公正取引委員会のQ&Aのとおり、取適法では例え両者の合意があったとしても、契約金額からこのような差し引きを行うことを認めていませんので、法律上の問題となる可能性があります。
なお、公正取引委員会ホームページに掲載されている「中小受託取引適正化法テキスト」によると、これまで違反とされたことのある名目として、以下が例示されています。
- 歩引き
- 仕入歩引
- 不良品歩引き
- 分引き
- リベート
- 基本割戻金
- 協定販売促進費
- 特別価格協力金
- 販売奨励金
- 販売協力金
- 一時金
- 協力値引き
- 支払手数料
- 品質管理指導料 など
出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)
納品後に歩引きが行われるケース
三つ目は、納品や検収が完了した後に歩引きとして代金が差し引かれる場合です。例えば、「取引条件の見直し」「販売状況の変化」などを理由に、請求金額から一定割合が差し引かれる場合です。
「歩引き」と官公庁案件における「歩切り」の違い
「歩引き(ぶびき)」と似た言葉に「歩切り(ぶぎり)」があります。いずれも「一定割合を差し引く」という意味合いを持つ言葉ですが、歩切りは主に官公庁案件に関係します。
歩切りとは
歩切りとは、予定価格を設定する際に、適正な方法で算出した金額から、合理的な理由なく一定割合を差し引くことを指します。
例えば、積算の結果として予定価格が1億円となる場合に、財政事情などを理由として一律に数%を差し引いて予定価格を設定するような行為が、歩切りとされます。
歩切りにより予定価格が不当に引き下げられると、見積り能力のある事業者の入札参入を排除する恐れがあること、原価を下回る価格での受注(ダンピング受注)を助長する恐れがあること、業務の担い手の育成・確保に必要な利潤を受注者が確保できないこと等の問題が指摘されてきました。
「歩切り」は現在では禁止されている運用
こうした背景から、公共工事の品質確保の促進に関する法律(いわゆる「品確法」)の平成26年6月に改正・施行された際、「歩切り」による予定価格の切り下げは法律違反であることが明確になりました。
公共工事の発注者は、積算基準に基づいて工事に必要な費用を適切に算定し、その結果に基づいて予定価格を設定する必要があります。
まとめ
歩引きとは、請求金額から一定割合を差し引いて支払う取引慣行を指します。かつては一部の業界で見られた商慣行ですが、現在ではその運用方法によっては取適法(旧:下請法)に抵触する可能性があります。
企業間取引では、契約条件や支払条件の内容によって取引上のトラブルが生じることがあります。そのため、取引条件を事前に確認し、契約内容を正しく理解することが重要です。
一方、官公庁による調達は入札制度に基づいて実施されており、発注内容や契約条件は公告や仕様書などで事前に公表されます。官公庁による調達は全国で多数実施されており、民間企業が参加できる入札案件も幅広く存在します。
ただし、発注情報は国や地方公共団体など発注者ごとに公表されているため、個別に確認するには手間がかかるという課題があります。
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