- 意見招請とは、入札前に仕様書案への意見を募る手続き。
- 対象となる調達は、WTO政府調達協定に基づく、1億4千万円以上の案件。
- 供給者は、入札準備や競争優位、リスク回避などのメリットがある。
国や地方公共団体の入札では、具体的な発注内容は入札公告時に公開される仕様書に記載されています。
一方で、特定の場合に、仕様書について事前に意見を募り必要な意見を仕様書に反映したうえで入札を行うことがあります。この仕様について意見を求める手続きを「意見招請」と言います。
この記事では、入札で実施されることがある「意見招請」について、どんな案件で実施されるのか、意見招請に応じるメリットは何かなど、詳しく解説していきます。
もくじ
意見招請とは
「意見招請」とは、国や地方公共団体などが一定の要件に該当する調達を行う場合に、案件に関心のある供給者に対し仕様書の案に関する意見を求める手続きです。
※「調達」とは、国や地方公共団体等が行政サービスの提供に必要な工事・物品・サービスを購入することです。購入先の決定は主に入札によって行われます。
※「供給者」とは、当該調達で購入する物品・サービス等の購入先となりうる者のことです。関心のある供給者は、事実上「将来の入札参加者」といえます。
意見招請の手続き
国や地方公共団体などの調達機関は、入札公告(公示)の予定日の少なくとも 30 日前に、「仕様書の案の作成が完了した旨」を官報に公示します。
当該公示では、以下の事項を明らかにすることとされています。
- 調達機関名及び連絡先
- 調達の内容(名称、数量)
- 仕様書案の入手先
- 意見の提出期限
- 説明会を開催する場合にはその旨の注記
仕様書案に対する意見の提出期限は、意見招請の公示の翌日から起算して少なくとも20 日以後の日とされています。(急を要する場合を除く)
案件に関心のある供給者は、仕様書案に対する意見を所定の方法で提出します。
調達機関は、意見により仕様書案の改善が必要であると認め、仕様書案を変更する場合は、公示又は招請状(※)に基づき応募した全ての供給者に当該変更の内容を通知します。
(※)仕様決定前に、資料招請に関する公示によって資料提供した供給者に対し、意見招請の実施を知らせる文書
意見招請が実施される要件
意見招請の対象となる調達は、「政府調達手続の対象となる調達」のうち「80万SDR以上(令和7年度末までの換算レート:1億4千万円)の調達額と見込まれるものです。
意見招請が行われる「政府調達」とは?
国や地方公共団体などが総務大臣が定める基準額以上の物品や役務の調達を行う場合、WTO(世界貿易機関)の「政府調達に関する協定」(Agreement on Government Procurement:略称GPA)の国際約束の適用対象となります。
この国際約束の対象となる調達が一般に「政府調達」と呼ばれています。
WTOの「政府調達に関する協定」は、1995年1月に発効した「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO協定)」に含まれる複数国間貿易協定で、別個に受諾を行ったWTO加盟国のみが協定に拘束されます。
2012年3月30日には「改正協定」が採択されたことで、適用範囲の拡大や調達手続の簡素化が実施され、締約国の政府調達市場が更に開放されることとなりました。
日本においては、政府調達の対象となる事務の取扱いに関して「国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」「国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める省令」が定められています。
事務の詳細については「政府調達手続に関する運用指針等について(平成26年3月31日関係省庁申合せ)」で「政府調達手続に関する運用指針」が定められ、意見招請はこの運用指針で規定されています。
政府調達の対象となる機関
政府調達の対象となるのは、中央省庁、地方自治体(都道府県及び指定都市)、特殊法人、独立行政法人等です。
政府調達対象の調達額
政府調達はWTO政府調達協定による基準額と、自主的措置による基準額があります。
なお、自主的措置とは、日本市場が国際水準を上回る開放度を達成するために国際約束上の基準を上回る基準を自主的に策定・適用しているものです。
以下は、中央省庁、地方自治体、その他機関(独法など)におけるWTO協定基準額と邦貨換算額です。(適用期間:令和6年4月1日から令和8年3月31日まで)
なお、現在適用されている自主的措置の対象は、中央政府の機関及びその他機関が実施する「物品」「その他のサービス」に該当する調達のみが対象となっています。
中央政府の機関
WTO基準(万SDR) | WTO基準邦貨換算額(万円) | 自主的措置(万SDR) | 自主的措置邦貨換算額(万円) | |
物品 | 10 | 1,800 | 10 | 1,800 |
建設サービス | 450 | 81,000 | - | - |
技術的サービス | 45 | 8,100 | - | - |
その他 | 10 | 1,800 | 10 | 1,800 |
地方政府の機関
WTO基準(万SDR) | WTO基準邦貨換算額(万円) | 自主的措置(万SDR) | 自主的措置邦貨換算額(万円) | |
物品 | 20 | 3,600 | - | - |
建設サービス | 1,500 | 272,000 | - | - |
技術的サービス | 150 | 27,000 | - | - |
その他 | 20 | 3,600 | - | - |
その他の機関
WTO基準(万SDR) | WTO基準邦貨換算額(万円) | 自主的措置(万SDR) | 自主的措置邦貨換算額(万円) | |
物品 | 13 | 2,300 | 10 | 1,800 |
建設サービス | 1,500 450 | 272,000 81,000 | - | - |
技術的サービス | 45 | 8,100 | - | - |
その他 | 13 | 2,300 | 10 | 1,800 |
※出所:外務省ホームページ「政府調達協定及び我が国の自主的措置の定める「基準額」及び「邦貨換算額」」
意見招請における供給者と調達機関の意図
実際の意見招請ではどのような意見が提出され、また仕様書案への反映はどのような考え方で行われているのでしょうか。
ここでは、経済産業省が令和3年4月から5月にかけて実施した「執務用机外4件の調達」の意見招請における意見と回答から、意見をした事業者及び調達機関それぞれの意図を分析してみます。
※引用元:経済産業省ホームページ「意見招請|執務用机外4件 仕様書案に係る意見招請に対する回答について」
例1:仕様に不記載の事項に関する意見
1つ目の例は調達物品の仕様について参考商品(品番)の例示があるものの、性能(付属品)について不明瞭であったため意見したものです。
項目 | 意見 | 意見の理由 |
パントリー用ローキャビネット | 必要棚板枚数を明記されてはいかがでしょうか。 | 参考品番をWEBカタログで見る限り、詳細不明なため。 |
仕様書に記載がないものについて「おそらく○○であろう」と推測で入札額を見積もったものの、落札後に発注者から認められないと言われてしまうと、想定以上のコストがかかってしまうことがあります。
また、調達機関(発注者)としても、落札後に仕様に関して認識の相違があると納品の遅れにつながることもあり、変更契約や予算の繰越手続きなどで事務負担が増えてしまうリスクもあります。
そのため、仕様書で不明瞭な箇所について意見・確認することは、発注者・受注者双方にとってメリットがあります。
なお、この意見に対する調達機関の回答は以下のとおりです。
意見を踏まえ、仕様書に追記する判断となりました。
それぞれの調達機関は、調達内容に関する専門家とは限りません。
事例として参考にしている経済産業省の業務は「経済及び産業の発展並びに鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保」であり、事務什器について専門的知識を持つ職員が必ず存在するとは限りません。
そのため、意見招請で供給者からのフィードバックを得ることによって、実現不可能な要件や成果物に大きな違いを生む仕様の未設定などのリスクを回避することが可能になります。
また、受注者としても、仕様通りであるにも関わらず「思っていたものと違う」と思われて、調達機関との関係が悪化することを未然に防ぐことが可能です。
例2:性能の追記に関する意見
項目 | 意見 | 意見の理由 |
執務机 | 下線部を追記してはいかがでしょうか。「天板最大積載質量60㎏(等分布質量)以上であること」 | 製品の安全性を担保するため。 |
仕様書に机の耐荷重に関する記載がなかったことに関して、安全性を理由に耐荷重の記載を意見しています。
この意見の意図として考えられるのは「自社に有利な競争環境にする」ことです。
供給者(将来の入札参加者)は、自社の製品やサービスが調達要件に適合するように仕様書が設定されることを望んでおり、仕様が自社の強みを活かせる内容になっていれば、入札で優位になる可能性が高まります。
このため、特定の技術仕様や要件について提案を行い、仕様が自社にとって有利に働くように働きかける意図があります。
上記の耐荷重に関する意見では、具体的に「低グレード品での応札事業者を排除すること」や「耐荷重60kgカテゴリーでの競争に持ち込むこと」が期待できます。
仮にこの意見者が、官公庁のPC環境や書類の量を勘案し「耐荷重60kg以上の製品が最適な提案である」と考えていたとします。この場合に懸念されるのが「耐荷重60kg未満の製品」で応札することで入札価格を低く抑える他社の存在です。
こうした場合には、提出意見において仕様書への具体的性能の追記を意見することで、安い競合他社の参入を排し、調達機関にとっても「安かろう悪かろう」を避けられるメリットがあると考えられます。
また、他社に対する競争優位性がある自社製品が耐荷重60kgの製品である場合、仕様に耐荷重要件が記載されれば、事実上「耐荷重60kg程度の製品」での競争に限定することができます。(それ以上の耐荷重がある商品は価格帯が異なると考えられるため)
なお、この意見に対する調達機関の回答は以下のとおりです。
調達機関としては、仕様を追加することによって入札参加者を限定してしまう恐れがあることや、また参考品番と同等品を納品することで、積載重量に関する懸念は生じないと判断したようです。
意見招請に関する公示を確認するメリット
前項で紹介した事例から、供給者(将来の入札参加者)にとっても意見招請を活用することのメリットがあることがわかります。
意見招請に関する公示をチェックし、意見することのメリットは以下のとおりです。
メリット1:入札参加に向けた準備ができる
意見招請に関する公示は、上述のとおり入札公告(公示)の予定日の少なくとも 30 日前に公示するよう定められています。また、政府調達の入札公告は入札期日から起算して40日前まで(急を要する場合等は10日)に行うこととされています。
更に、調達額が80万SDR以上となる見込みの政府調達は、調達年度当初に調達内容や入札公告の予定時期を官報で公示することとされています。
そのため、通常の入札案件よりも早期に情報を得ることが可能であり、入札額の見積りや落札後に生じる種々の手配について十分な時間を確保することが可能です。
メリット2:入札での競争環境を有利にすることができる
意見招請の事例で見たように、供給者(将来の入札参加者)は仕様書案への意見を通じて自社に有利な競争環境を確保できる可能性があります。
記載のない事項について特定の仕様を意見することで、仕様が自社の強みを活かせる内容になれば、入札で優位性を保てる可能性が高まります。
メリット3:受注後のリスク回避ができる
調達機関は仕様書案の作成に必要な調査を行いますが、調達目的の達成に必要な事項が全て仕様書に記載されているとは限りません。仕様が不明確・不明瞭であったり、過度に厳格であったりすると、供給者にとっても業務の履行が困難になる可能性があります。
そこで、意見招請の機会を通じ、自社の実績を基に実現可能な範囲での仕様や要件を提示することで、調達機関に現実的な基準を設定するよう働きかけることが可能です。
意見招請に関する公示を調べる方法
意見招請に関する公示は官報や、調達ポータル(省庁等の入札情報提供サービス)、各自治体・団体のホームページで確認することができます。
しかし、個々のサイトにアクセスして検索する必要があり、思った以上に時間がかかってしまった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
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まとめ
今回は、国や地方公共団体の入札で行われる「意見招請」について解説しました。
意見招請とは? | 政府調達の対象となる入札で、公告前に仕様書案に意見を求めること |
意見招請の対象は? | 政府調達対象のうち調達額が80万SDR(現レート:1億4千万円)以上と見込まれる調達 |
意見は反映される? | 調達機関が必要と認めた場合に反映される |
意見するメリットは? | ・入札参加に向けた準備ができる ・入札での競争環境を有利にすることができる ・受注後のリスク回避ができる |
意見招請の対象となるのは、政府調達対象のうち調達額が80万SDR(令和7年度末までの換算レートで1億4千万円)以上と見込まれる調達案件です。
大規模かつ高い専門性が要求される案件であることが見込まれますが、意見招請のほか年度当初の情報公表など慎重な調達プロセスが定められていますので、受注可能性が期待できる案件はチェックしてみることも良いでしょう。
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